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りっぷたいでんはにー!

IF・おさななじみ塩なつやすみ まりやんち限定ver. 裏


 夏休みだね。暑いねえ。こんな日はスイカだよねえ。

 ということで、まるっと一個買って手土産持参。本日は生徒会の用件ではなく別の仕事で若に報告があるからご自宅にお邪魔する。あと五分くらいで着きますとメッセージしたら、開いてるから勝手に入ってこいと返信があった。
「おじゃましまーす。」
 玄関には若のでかい靴の隣に白くてちっちゃなローカットエアフォース。サイズを見ると六。えっ美和子さん?! …なわけないか。となると、あの黒王子様…まだ日本にいらっしゃるの?

「あれっ、やっぱりキョウがいらっしゃる。夏休みはニューヨークに滞在するご予定でしたよね?」
 案の定リビングルームの大きなソファには、随分と小さくうずくまっているシエスタ中の小学生がいた。
「キョウだけ取り止めたんだと。急遽一ヶ月預かることになった。」
「緊急事態発生ですか?」
「……。」
 若がキョウを見ながら呆れた顔をしてふー……と息を吐いた。あ、この感じだと俺が心配したような事じゃないね。若がただの兄ちゃん顔になってる、良かった。
「隣のあの子に話したいことがあって何がなんでも引き延ばしたくないらしい。昨夜リックスさんが 『電話でいいだろうって言っても聞かないから置いていく』って、ここにキョウを連れてきた。」
 隣のあの子。
 ああ、三田の幹部以上には生まれた時から名前が知れ渡っている暁野りこちゃんのことね。毎日のようにキョウと一緒にいるし、キョウがもうりこちゃんに関してあんなんだし、何かあったら示しがつかないから、相多さんちと三田の親父さん達がちゃんと見守っているみたい。りこちゃん本人はもちろん、暁野さん家族も全くご存じないけど。
「うわ、じゃあファーストクラスをふいにしたんですね、このお坊ちゃん。」
「はぁ……。そんなことなんてどうでもいいくらいに俺たちは大変だったんだよ……。昨夜のキョウは、それはもう酷かった……。ニューヨークのあとはスペインを訪れる予定なのにリックスさんがいくら説明してもアラビア語でしか話さなくなるし、隣の子以外の生物は全部敵みたいな顔して、誰もキョウにさわれなかった。リックスさんは諦めてその足で空港に行ったよ。」
「うわ、想像するだけで怖そう。……で、このうずくまり方。また可哀想な展開ですか?」
「……ああ。」

 

 


 ――昨日、りことけんかした。
 いつものようにおれの部屋にりこを呼んで夏休みの宿題である算数ドリルを一緒にやっていたら、りこが答えを間違えていた。
「りこ。最後の問題のこの答え、ちがうぞ。」
「……いま最初から見直しをしてるとちゅうだったのに、なんで言っちゃうの?」
「だっておれぜんぶとっくに終わってたから、ひまだし。りこの分の答え合わせをしてたんだよ。ほらこれ、」
 りこの元からドリルを引っぱっておれのほうにページをよせる。式のとちゅうのまちがっている部分をシャーペンでさそうとしたら、りこにドリルを引っぱられて戻された。
「わたし恭太にそんなのたのんでないもん。」
「はー? 知ってるよ。とくべつにりこの答えも見てやってんだよ。いいからドリルかして。」
「いいよ見なくて! わたし自分の力でやりたいんだから。じゃましないで。」
「……。」
 りこはまたドリルの世界にもどってしまった。

 

 なんだよ、じゃまって。りこはおれがじゃまなの?

 信じらんねえ!

 おれのこと、じゃまって言うやつなんてどこにもいないぞ?! なんでいつもりこだけおれにそういうことを言うんだよ!!

「そんなのもできないのかよ、おれが教えてやる。」
「あっ……、恭太ちょっと! 返して!」
 ドリルをおれのほうにまた引っぱって、そう言ったらりこがおこった。


 その後たくさん言い合いして、りこがどんどんおれにおこっている顔になっていって、それを見ているとおれはどんどんイヤな気持ちになって。りこはぶすでばかですぐおこるってつい言ってしまった。
 そうしたらりこが涙をためて、無言で部屋から出ていった。

 なにがおこったのか急すぎて体が動かなくなったけど、おれの家のげんかんのドアがバタンと閉まる音を聞いて、りこが家から出ていったことがわかって、あわてて立ち上がった。
 びっくりして急いでおとなりに行って、でもカギが閉まっていたから台所からカギを開けて入って、りこの部屋をノックしたけど返事がなくて、いないのかと思ってドアノブに手をかけたらカギがかかっていた。だから、りこはこの部屋にいる。

「りこ。開けて。」

 ……。
 

 聞こえなかったのかな?

 トントン。
 今度は強くノックしてみた。

 

「……。」

 

 あれ?

 

「りこ?」


 トントン。

 こんなにたたいているのだから、聞こえないわけないよな?

 

「無視すんなよな、りこ!」

 

 ドンドン。

 

「……。」

 

 心臓がばくばくしてきた。
 だって、恭太のばか! とか、いつものように返ってこない。

 

「……。」

 

 なんで?

 ……あ、りこはねちゃったのかもしれない。
 きっとそうだ。りこは起こしてもらわないと起きられない、おねぼうさんだからな。

 でも、さっきのけんかからまだ一分くらいしかたってない。

「りこ。あの、……ごめん……。」

 

 トントン。

 りこは多分ねてない。おれの声も聞こえているはず。

 ほら、あやまったぞ。このおれが、あやまったんだからな! おれだぞ?! 学校の女子はほとんどおれのことが好きなんだからな?! そのおれが、りこだけにあやまってるんだぞ?!

「……。」

 じゃあなんで返事してくれないんだろう。

 

「……りこ、りこ。」

 りこと俺の間に挟まるこのドア一枚が……とてつもなく分厚く頑丈なものに見えてきた。

「……おれ明日からニューヨークだから。」

「宿題やろうよ。」

 


 ねえ、無視しないで。おれはここにいるのに。りこのそばにいるのに。

 

「りこ…ごめんなさい。」

 ……あれ、涙がでてきた。

 

「りこ、りこ。」

 ふいてもふいても、それは止まらなかった。

――若にキッチンを借りて、切ったスイカと冷蔵庫に入っていたミネラルウォーターをテーブルに置いた。
「はあ、なるほど。毎度懲りずによくやりますね、キョウは。まだ自覚してないんですかね?」
「どうだろうな……嫌われてから気付くのも、もうここまできたらアリなんじゃないか?」
 あくびをしながら若が言う。わるい子には一度お仕置きを、なノリで若が言うけど、このわるい子をお仕置きできるのも、張本人の女の子しか存在しないというのがまた難点。
「若、眠いんですか?」
「今朝は五時起き。昨夜は数時間スマートフォンを見つめて寝ようとしないキョウからなんとかそれを奪って零時前にどうにか寝かせたのに、今朝はラジオ体操があって隣の子を起こさないといけないから連れていけと鬼気迫る勢いで起こされて、実家から車を出させた。行ってみたらほとんどが保護者付き添いのようだったから、ついでに俺も体操してきた。」
「うわあ。」
 惨事が容易に想像できちゃう。夜中に暁野さん宅にイタ電しそうなキョウをなんとか鎮めて、朝は三田の兄さんのどなたかが運転手をしたのだろう。

 ていうか若がラジオ体操? わあーめちゃくちゃ健康的ー超見てみたーい!
「実は、隣の子を迎えに行ったら家には誰も居なかったんだよ。キョウは昨日の喧嘩のせいで急に引っ越したのかと蒼白して……そんなわけないが、正常な判断力が無くなっているキョウを見てて可哀想になってしまったから、向こうの空港に着いた頃のリックスさんに電話してリックスさんから隣の親御さんに連絡してもらった。そしたら家族旅行で十日留守にするって。」
 お隣さんの所在を知るために国内外の大手裏番を経由する。なんて無駄に豪華なテレコンなの。
「でもキョウは、『おれはそんなこと聞いてないからリックスのうそだ』って聞かなくて。だから結局公園に行って、仕方ないから大勢と一緒にラジオ体操して、終わって誰も居なくなってもキョウが動かないからしばらく留まって。ドライバーに朝メシをコンビニで買ってきてもらってキョウとベンチで食べて……ふわぁ……、なんだかんだで車を待たせたまま多分一時間は居たな。」
 「あらあら……。」

 大層ショックだったのだろう。

 だってキョウはニューヨークに行くって伝えていたのに、その子は家族旅行のことをキョウに言わなかったということだよねえ。
「それからは、ずっとソファであのまま。」
 スイカの種を取り除きながら若のあくびは止まらない。
「若もリックスさんも大変ですねえ……。」

 

 俺はソファへ向かい静かに腰を下ろして、眠っているキョウを覗き込んだ。
 彼の目の回りが腫れぼったい。
「さっきまでキョウは泣いていらしたんですか?」
「かもな。俺にも誰にもキョウは絶対泣き顔を見せないから、家に戻ってから一人で泣いていたんだろう。」
「隣が帰ってくるまであと九日ですか。きっとキョウにはさぞ辛くて永ーい九日間になるのでしょうね。早く会って謝れるといいですけど。……あとは早く貴方がパシリへのストーカー級のしつこさを愛と情熱に変換できればりこちゃんは、っ痛え! 痛っ、痛い! えっ、なになに?!」
 いきなり眠っているキョウに連発でマジ蹴りされた。
「あ、名前?! その子の名前呼んだから?! ごめんなさい! え、じゃあ寝たふり?! ……いや、寝てらっしゃる……。」
 顔は無表情。というか焦燥。

 整ったイケメン小学生なのに、まるで人生に疲れ切っちゃった可哀想な寝顔。寝息も聞こえる。
「キョウの潜在意識が聞いているんじゃないのか?」
「エスパー?!」
 この天才児、使う能力の方向性がなんかずれてきてない?!

 

 ……。

 

「……りこちゃん。痛! 痛いっ。」
 キョウの顔を覗き込みながら試しに小さな声で該当者の名前を読んだら、瞬速で蹴りをお見舞いされた。
「ほんとだ、はは、凄いですねキョウ!」
 いやあ、さすがはキョウですね。惚れ惚れしちゃう。隣の子関連に限り、壁に耳あり障子に目ありを地で行く変態さん。

「りこちゃ、ぃい痛、いってえ! ははは! りこちゃーん、うぉっ、いてっ。」
「……慶尚、寝てる子どもで遊ぶな。」
「はーい。」

 

 ……。
 

 俺は貴方が心から心配です。隣の子に相手にされなかった時の貴方の未来が。

 

 だから早く気付いて下さいね。
 

 女の子が大人になって綺麗になるのは早いですよ。アイドルは庶民には手が届かないと諦めて近場の男子に目がいくようになる前に……気付いて下さいね。

 

 

 

おわり。

こんにちは。夏バテを夏バテと認めない夏好き真里谷です。

ということで晩夏お見舞い申し上げます2017!​

8月初旬にTwitter内で暑中お見舞いでお贈りした誤字脱字満載の超インスタントリップを、

もうちょっとマシになるように書き直しました。

完結まであと少し!と思い続けて一年経過!おっかしいな~終わんないなあ~????

真里谷の中ではもう最終シーズンに近いのですが、書き始めると遠くなるなあ~???

いつも励ましのメッセージをありがとうございます!!

素敵な読者さまへ、感謝をこめて♡
 

​2017.08.27 まりや

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