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りっぷたいでんはにー!

IF・おさななじみver. 裏


「え、キョウさんはお隣の女の子が毎日代理で持ってくる手紙を結局全部捨てないで持ってるんですか。中は読まないのに?」
「あたりまえだろ、だってりこがさわったものなんだぞ。他のやつがりこにさわったら大変だろうが!」
「…ん?手紙ですよね。本人じゃなくて。」
「垰、そこは突っ込むな。流せ。」

 ここは私立三田男子高、生徒会室。
今はこの存在感溢れる異色の小学四年生を、執行係の天哉と垰があやしている最中だ。
それを横目に、生徒会長である俺は四半期分の定例会資料をまとめている。


 遡ること一時間と少し前、放課後の生徒会定例会議の資料を取りに一旦すぐ近くの自宅に戻ったら、玄関にうつむいたキョウが立っていた。
「キョウ、どうした。家、まだ誰もいなかったのか?」
週に何度か預かっていた時期もあったから、キョウが突然来ても何ら問題はない。でも俺が声をかけて見上げてきた彼の顔が、半べそだった。…びっくりした。この強靭な小学生がべそをかくなんて俺は一度も見たことが無かったから。
こんなキョウを一人にしておけず、一緒に高校へ連れて来た。生徒会のメンバーは以前からキョウと、キョウの環境も知っているから問題なくこうやって室内に置いておける。

…まあ、話の流れからして、なんだか微笑ましい類の半べそのようだった。大抵、キョウが小学生っぽくなる瞬間は隣のあの子が関わっている。でも半べそまでいったのは今回が初めてだ。

「キョウさんは、お隣の女の子が今度こそ自分に手紙を書いてくれたのかもしれないと期待して、毎回受け取っているのでは?」
「……。」
「あー天哉先輩、そういうことね。なるほどな。」

「でもいつも手紙を見ると差出人には違う女の子の名前が書いてあって、悔しくて、ついに『むかつく、どっか行け』なんて言ってしまった。」
「……。」
「その女の子は悲しい顔をして歩いて行ってしまって、謝ろうと思って、次にすれ違った時に声をかける気でいたら、空気みたいに無視された。」
「りこ、おれのこと無視したんだぞ?!体ごとあっち向けて、まるでおれが居ないみたいに、ろう下の窓から外、見始めた!…あんなに無視されたら怒るにきまってんだろ!」
「えーなになにー?キョウ、無視されちゃったんですかー?」
ガラッとドアが開き、また勝手に制服のネクタイを変更しているツーブロック頭が入ってきた。
ああ…、このタイミングでめちゃくちゃ面倒くさいのがやって来た。
「若、遅れて申し訳ありません。昨日いただいた指示は全部終わらせてきました。」
「ああ、わかった。慶尚、頼むからキョウを刺激すんな。」
「そんなことしませんよー。俺ってキョウが好きだから、好きな子は助けてあげたくなるのが普通じゃないですか?」
「「「…………。」」」
「…きもちわるいんだよ。寄んじゃねえ、ヘビ。」
「またまたぁ。それで?キョウ、誰に無視されちゃったんです?こんなイケメンアイドル天才小学生を無視しちゃうのはどこのバカですか?って、え?痛い痛い痛い!!いって!!」
キョウが慶尚の腹めがけて拳を何度もめり込ませている。
「りこのこと、バカとかいってんじゃねえぞ!!このくそヘビ!!いっぺんしね!そして二度しね!」
「うわっ、しまった、りこちゃんのことだったんですねっ、ああ!いいいぃいたたっ!キョウやめてっ!」
今度は足を思いっきり踏まれまくっている。
「おまえごときがりこをりこちゃんって呼んでんじゃねえ…。おわびしてていせいしろ!」
「わかりましたすみません、謹んでお詫びして訂正致します!ていうかその子の前に居る時みたいに猫被って小学四年生の平仮名で会話し続けるのやめてキョウ!」
「ああ?毎回毎回うるせえんだよこの馬鹿慶尚、てめえなど地獄(ゲヘンナ)に棄てられてしまえ。」
「いきなり会話のIQ上がった!リアルGo to the Hellですねそれ!もうやだこの頭良い黒小学生!」
「慶尚先輩、話進まないからちょっとそこ座って静かにしててもらえますか。いま天哉先輩がキョウさんに順序良くアドバイスしていたところなんですけど。」
「えぇー。垰、つれない。」

つまりキョウは隣の暁野家の子が好きだということにまだ気付いていないのか。もう何年も前から、周囲の大人からは見て明らかなほどなのに。…まあ、しばらく天哉と垰に任せるとするか。

「じゃあ、キョウさんは、なんでその女の子に無視されると嫌なんですか?」
「…だってりこがおれを無視するなんてありえないだろ。りこのくせに。」
「キョウさん、それは天哉先輩の問いかけに対する答えになっていません。このままずっと無視され続けることになったらどうするんです?違う中学に行っちゃいますよ?」
「…おれ頭良いからどの中学でも入れるし。ぜったい同じ中学に行ってやるよ。」
「そうですね。でも女子校だったら、いくらキョウさんでも不可能ですよ。」
「…!!」
ふと見たら、キョウが目を見開いて絶句していた。……まさか、そんな誰だって思いつくだろう可能性すら思いつけないほど、キョウは今一杯一杯なのか。
「宿題も一緒にできないし、もちろん教科書も、消しゴムなんて貸してくれないほど遠くに行っちゃいますよ。ね、天哉先輩。」
「女子校は中高一貫が多いですし寮付きもありますよ。それに、中学を待たずとも転校しようと思えば今すぐだってできます。来週転校しちゃったらどうしますか?もしかしたら次にその子に会えるのは十八歳になってからかもしれません。」
「十八さい……。」

まさかの天才児が両手の指を使って一から八まで数えている。
…その指は震え、どんどんキョウの口がへの字になってきた。さっき見た半べそ顔の再来。

この規格外の男児が、初恋の上で転がっている。

「……ふはっ。」
思わず笑いがこぼれてしまった。

「なに笑ってるんですか、若。あなたもそんなに大して変わらないですからね。」
俺の横でおとなしくキョウたちの光景を見ていた慶尚が小声で口を挟んできた。
「本当なら今日は生徒会の日じゃないです。なんで今日にしたんですか?」
「……。」
「なーんて、別におっしゃらなくても全員わかってますよ。隣の生徒会が今週は臨時で今日になってるからですよね。ここから見えますし。」
「……。」

隣接の私立三田女子高。治安上校舎はほぼ互い違いに建てられて双方全く見えないが、ちょうど校舎の一番端にある互いの生徒会室だけ、とても近い。

俺たちと同じグレーのブレザーに、大きな紺色のリボン。紺と赤と白のチェック柄の、幅広のプリーツスカート。


そこから覗く脚に、紺のハイソックス。

揺れる髪。

「……。」

美和子さんは紺が似合う。

「書記のボードを見る限りあっちの会議はどうやら長丁場になりそうですね。つまり!それまで俺たちも帰れないので、四半期レポートとは言わず半期全部まとめますか?あ、美和子さん今クシャミした。」
ダン!とデスクの上に乗っていた慶尚の手めがけてボールペンを突き刺した。それは運良くこいつの中指と人差し指の間に着地した。
「こっ…こわー!若怖いですから。すみませんでした、もう見ませんから!」
慶尚が「もー、だから早く告ればいいのに…」とブツブツ言っている。

…フン。

「お寝坊のキョウさんが毎朝ちゃんと起きて、隣のお迎えに行くのはなんでですか?その子はキョウさんのパシリなんでしょう?前にそう言ってましたよね。なんでパシリを迎えに行くんですか?登校班の集合場所に居ればいいのに、なんでわざわざ訪ねに行くんですか?」
垰がニコニコと、キョウに畳みかけている。おいおい、相手は半べその子どもなんだからお手柔らかに頼む。
「だって、だっておれが行かないとりこは起きないから。本当だぞ。いっつもおれが行くと、パジャマのままで階段から目をこすりながら慌てて降りてくるんだ。」

めんどくさそうに話すキョウの嬉しそうな顔。天哉も垰もニコニコ聞いている。

「前髪も少しはねてる!今朝は右もはねてた。寝相はいいんだぞ。でも髪がくせっ毛なんだ。」

「ふうん。なんで寝相知ってるんですか?」

「だって小二まで一緒に泊まりとか昼寝してたし。…今はもうしてないけど……。」

嬉々として言い出して最後は至極落ち込む。…これ、撮影してキョウが自分で見れば自分の気持ちに気付けるのでは?

「今日はどんなパジャマだったんですか?」
「緑と青の鳥のパジャマ!」
「即答ですね。キョウさん、よくパシリの髪やパジャマの柄なんか覚えていますね。」
「はあ?!りこのパジャマなんか三着しかないんだからすぐ覚えちゃうに決まってんだろ!冬用は別に三着ある。」
「なるほど。手紙の保管理由と言い、キョウさんは真性ですね。将来が楽しみです。」
慶尚が隣で涙を流しながら腹を抱えて無言で笑っている。

「…でも、その子からは迎えなんて頼んでいないと、来ないでと言われたのですよね?」
今度は天哉がキョウに聞く。
「ブスと一緒に居ても意味ないでしょうって、恭太が嫌いって、言われたんですよね?」
「……。」
「なんでその女の子はキョウさんが嫌いなんて言うんでしょう?」
「あーくんうるせえ、何度も言うな!!」
キョウの余裕が全くないな。でも二人とも、本質は絶対言わない。あくまでも本人が気付かないと意味がないことをわかっている。
「だってその子はブスだし一人で起きれないし、キョウには他の女子の手紙配達するだけだし、家の鍵忘れて泣いてるから貸してあげたのに逆に怒るし、こんなかっこいいキョウを無視するし、パシリなのにぜーんぜん、役立たずですね。」
今度は慶尚が気持ち悪いくらいの笑顔で言う。
「キョウの言う通りその子は絶対一生モテないです。そんな女、誰も好きになりません。キョウだって嫌いでしょ?だからその子にブスって言うんでしょう?転校でもどこでも、行かせてあげればいいじゃないですか。だってその子はキョウのこと嫌いって言ってるんですし。お互い嫌いなら何の問題も無いです。キョウもその子のそばに居たくないでしょう?なんでそんなの家来にしてるんです?だってすっごいブスなんでしょ、」
「黙れくそヘビ!!ブスって言うな!!」
「だってブスって言ったのキョウですよ。」
「りこがブスなわけないだろうが!!りこが…ブス?!はあ?!しねヘビ!三度しね!!りこは、りこはっ、世界一かわいくて、おれが居ないとすぐ他の奴に見つかるかもしれなくて、だから朝からずっと見張ってないといけないんだよ!今度りこのことブスって言ったらころす。」
三人とも「一段階突破」って顔だ。…まあ、俺も同じ顔になっていると思うが。
「はーい。二度と言いません。でも、じゃあなんでキョウは言っていいんですか?」
「……それは…、だって、かわいいやつにかわいいって言ったって、目立たないだろ…。」
「キョウさんは目立ちたいんですか?でも十分目立ってますよ。頭良いし、四か国語話せるし、天使みたいなお顔して、たくさん芸能事務所のスカウト来てるし、海外からもオファー来てるじゃないですか。」
「たーくん、ばか?そんなのわかってるよ、でもそういう目立つ事じゃねえんだよ!そんなの、りこには全然関係ない!りこに見ててもらうにはりこと話せる何かがないとダメなんだよ!じゃないとおれがりこの世界から追い出される!」

 

「「「「……。」」」」

自分で答えを言っている。が気付かない。三人に加えて俺まで顔が菩薩になりそうだ。


「そうですか、もうこの際なんでその子にそんなに自分を見てほしいのかという問いは宿題にします。今キョウさん、自分が目立っていることをわかってると言いましたよね。すごく目立っているイケメンアイドルからブスって言われ続けたら、女の子はショックで泣いちゃっても当たり前だと思いませんか。」
垰の一言でキョウが黙りこくった。
「ついに泣かしちゃって、急いで謝ったのに今更謝っても遅い、って言われたんですよね。モテモテの、皆のアイドルなキョウさんから『ブス』や『パシリ』に『まじむかつく』なんて毎日言われながら怒られたら、絶交したくなるかもしれません。恭太が嫌いって、思わず言っちゃうかもしれません。」
今度は天哉の一言がキョウを俯かせた。
「もう、本気で嫌われたかもしれません。」
慶尚がとどめを刺した。…そのとどめ、必要か?もう十分じゃないか?

「キョウ。お前はどうしたらいいと思う?」
しょんぼりと小さくなった背中に、俺も声をかけた。

「……家に帰って考える…。」
とぼとぼと歩き出したキョウに、送ってきます、と天哉と垰が付いて行った。


「俺…。キョウに嫌われちゃったかも…!ねえ若、俺言い過ぎましたよね?でもキョウに気付いてもらうためにはああ言うしか無くてですね…!」
「うるせえ、俺に言うな。…でもキョウがあそこまで鈍いとは俺も思ってなかった。」
「お願いします神様仏様りこ様…!どうか初恋で鈍感なキョウくんを許してやってください…!あわよくば好きになってあげて…!あんな泣きそうなキョウ、初めて見たのでなんか可哀想で…!」

横で突然祈り始めたうるさい慶尚を尻目に、半期分の会計レポートデータファイルを開いて業務に戻った。


俺も心の中でキョウがあの子と仲直りできますように…と願を掛けながら。



おわり。




 

 


――…つづきは表2.Confessions-9へ。(まだ言う。←)

気軽に書いた「IFおさななじみ」でしたが、好きとおっしゃってくださりとても嬉しかったので、そんな皆さまへ日ごろの感謝をこめて第二話目をお贈りいたします。調子に乗って今度は裏りっぷです。あー楽しかったです!

ちなみに、全て本編には無いパラレル設定です。年齢差もずれていますので完全に別物とご認識下さい。

​ということで、HAPPY NEW YEAR!応援して下さる皆さま、いつもありがとうございます☆

 

2017.1.1 真里谷サウス


【IF・おさななじみver.世界設定】
りこ:区立に通う真面目な小学四年生。十歳。幼馴染の恭太から長年いじめられている?女の子。
恭太:りこと同じ区立に通う、多方面に多様な猫を被る小学四年生。かっこよすぎて超有名。
九月か十月のイメージでIFを書いたので厳密にはまだ九歳。りこをいじめている←。これから後悔と名誉挽回に奮闘する日々が待っている。が、きっと本編よりはかなり早期に、希望に満ちたりことの生活が待っているのかもしれない。…いや、すべては今後の言動次第である。


斗儀:私立三田男子高校(ミタダン)三年生。十八歳。ミタダンを牛耳る黒い生徒会長。生徒会の会計監査を兼任。実は高校母体の会計まで見ている。創立者一族。斗儀に対しては同学年でも基本全員敬語。
慶尚:ミタダン三年生。十八歳。副生徒会長。会長ゆえ表立った行動ができない斗儀の指示で裏で動きまくっている。基本うざい。
天哉:ミタダン二年生。十七歳。生徒会執行役員一(慶尚とともに物理的に動く係)。
:ミタダン一年生。十六歳。生徒会執行役員二(同じく)。
美和子:私立三田女子高校(ミタジョ)二年生。十七歳。ミタジョの副生徒会長。


ミタダン制服:グレーのブレザー、水色Yシャツ、紺ネクタイ。紺地に赤チェックだけのズボン。
ミタジョ制服:斗儀の言っているとおり。スカートはみなさま長め。
(ミタダンミタジョというワードを本文内に出せなくて地味に悔しい。)

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